AKANE Project

About Project

熊野の森林に息づく
可能性と課題

紀州地方は、古くから「木の国」として知られ、その土地の77%が森林に覆われています。ここで生産される木材は「紀州材」と呼ばれ、その色艶と素直な質感が価値を高めています。紀州材は、強度や耐久性も優れており、長年にわたって貴重な森林資源として利用されてきました。

しかし、近年林業従事者の減少により、手入れが行き届かない森林が増えています。特に暖かい南の熊野地方では、スギノアカネトラカミキリという虫による食害が問題となっており、食害に遭った木材は「アカネ材」と呼ばれ、その見た目の悪さ(穴・変色)から利用が進まず、森林の荒廃を招いています。これは山から人が離れていく悪循環につながり、熊野の山々の未来に暗い影を落としています。

「アカネ材」に新たな価値を

「アカネ材」の見た目はユニークですが、その強度や耐久性に問題はありません。和歌山県林業試験場のデータによると、虫食いの痕は見た目上の問題だけで、材質自体の品質は変わりません。これを機に、虫食い痕を独特のデザインとして活かすことができれば、「アカネ材」の新しい価値を見出すことができるでしょう。

現在、熊野の森林には伐採時期を迎えた木が多数存在しますが、林業従事者の不足によりこれらが放置されています。このため、森林は荒廃し、自然のサイクルが崩れつつあります。この問題に対処するために、木材を積極的に活用し、AKANEプロジェクトを通じて森林の再生を図ることが環境保護にも繋がると考えられます。

Event

「パリで発信!和歌山の魅力∞
~南紀熊野ジオパークを世界へ~」開催

国際交流基金パリ文化会館にて、和歌山県の魅力を世界に発信するイベント「パリで発信!和歌山の魅力∞~南紀熊野ジオパークを世界へ~」が開催されました。

鈴木仁氏挨拶

  • 和歌山県地域振興部観光局観光振興課ジオパーク室の岡本み佳氏の司会により、イベントは幕を開けました。冒頭、国際交流基金パリ文化会館 鈴木仁館長がフランス語で挨拶を述べられました。

今井善人氏挨拶

  • 続いて、和歌山県地域振興部観光局長の今井善人氏が登壇し、次のように述べられました。

  • 「この度は素晴らしい機会をご提供いただきました隈研吾先生、パリ日本文化会館鈴木館長様、スプラッシュトップ株式会社代表取締役水野様、紀伊半島地域DMO 森重事務局長様に心よりお礼申し上げます。また、本日ご来場いただきました皆様、貴重なお時間をありがとうございます。」

  • 今井氏は、南紀熊野ジオパークの魅力を紹介する映像を上映した後、ジオパークについて説明を行いました。

    「ジオパークとは大地の公園という意味を持ち、貴重な地質遺産などを後世に残していくために1990年代後半から始まった活動で、2015年にはユネスコプログラムに位置付けられました。南紀熊野ジオパークは、地球誕生から約46億年をかけて作り出された独特の景観、温暖湿潤な気候がもたらす多種多様な動植物、そして熊野信仰など数多くの優れた自然や文化を体感できる場所です。」

  • 今井氏は、850mにわたり直線に岩柱が並ぶ橋杭岩や瀞峡などの貴重な地形、世界遺産である紀伊山地の霊場と参詣道について言及し、その魅力を紹介しました。

    「世界では自然環境とサスティナビリティへ配慮した行動が求められています。和歌山県は、旅行ガイドブック『ロンリープラネット』が2021年度に発表したベストイントラベルで、読者が選ぶサスティナビリティに配慮した観光地として第1位に選ばれました。南紀熊野ジオパークと世界遺産熊野古道は、和歌山の人々が誇りを持って守ってきた自然や歴史、文化、人の営みであり、まさしくサスティナビリティを実感できる地域です。」

  • 今井氏は最後に、南紀熊野ジオパークエリアの価値を強調し、ユネスコ世界ジオパークを目指す意気込みを述べました。

隈研吾氏基調講演

  • 続いて、建築家で東京大学特別教授名誉教授の隈研吾氏による基調講演が行われました。隈氏は、東京五輪の主会場である国立競技場のデザイナーとして知られ、2021年にはアメリカのタイム誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた建築家です。

  • 隈氏は、フランスでの多数のプロジェクトや、和歌山県との地方創生に関する包括連携協定について触れ、南紀熊野ジオパークの魅力をテーマに講演を行いました。

    「和歌山がどんなに素晴らしい所か、南紀がどんなに素晴らしくて特別な場所かということを皆様に伝えたいと思います。」と隈氏は語り始めました。

    隈氏は、パリ日本文化会館で開催中の自身と丹下健三氏の展覧会に触れ、木の建築の重要性を強調しました。1964年の東京オリンピックではコンクリートと鉄が主流だった一方で、2021年の東京オリンピックでは環境の時代を反映し、木のスタジアムを設計したことを説明しました。

    さらに、隈氏は和歌山との縁について語りました。

  • 「和歌山のことは、もともと木の産地として気になっていました。ある意味日本一と言ってもいいような木の産地です。そこには特別な場所の力があると感じていました。その代表が熊野の地です。熊野詣は都の京都から皇族までもが訪れるほど、ものすごいパワーを持っている場所でした。このパワーは皆さんも行ってみると分かります。熊野でとれる木は、同じ杉でも強度が違います。これは気候や土などいろんな要素が重なっているためだと思います。そういうパワーがあって、木もたくさんとれて、木も強くなっていく、そのパワーを感じる場所が和歌山なのです。」

  • 隈氏は続けて、フランスの作家アンドレ・マルローと和歌山の関係、特に国宝「那智滝図」とのエピソードを紹介しました。

    「アンドレ・マルローは和歌山に関係があるんです。マルローが有名な『那智滝図』という和歌山の滝の絵に出会って、何時間も動かないほど感銘を受けたというエピソードがあります。この絵は根津美術館が所蔵しているのですが、私がデザインした新しい根津美術館の館長さんから、その話を聞きました。フランスの大使も赴任してくると、必ずこの絵を見に来るそうです。このように、フランス人は場所のパワーに非常に敏感なのではないでしょうか。鎌倉時代の絵である『那智滝図』は、自然を象徴的に描いています。中国の影響も見られますが、一つの滝だけを神のように描くやり方は中国の絵画にはほとんど見られません。これは日本人の自然観を象徴しているような絵だと言われています。本物の那智の滝自体が信仰の対象になっています。熊野詣は熊野三山と呼ばれる神社に詣でるものですが、この滝自体が信仰の象徴と言ってもいいほど崇められています。私はヘリコプターでこの滝の近くに何度も行きましたが、上空から見ても山の中で滝だけが白い神様がいるように目立っています。皆さんにも機会があれば、下からも上からも見て、この滝の魅力を知っていただきたいと思います。」

    隈氏は最後に、根津美術館のデザインについて説明し、和歌山の地図を示しながら、紀伊半島の形成過程について触れ、続いて和歌山の杉を活用した「あかね材」について興味深い話題を提供しました。

  • 「あかね材とは、杉の中に入り込んだ虫が食べた後の木材のことです。これまでは欠陥品として扱われていましたが、実は虫が食べた跡が面白い形をしているのです。和歌山の若い人たちが、このあかね材を逆にプラスの視点で利用する運動を始めました」と、隈氏は説明しました。

    さらに、「今まで捨てていたものを逆に利用することで、何倍も価値が増えるのです。和歌山の杉は強度が高く、色も強いため、虫食いの跡を生かした家具作りが始まっています」と、その可能性を語りました。

  • 隈氏は、この取り組みが環境の時代、サスティナビリティの時代を象徴するものだと強調し、「和歌山に来ていただければ、この家具を作るワークショップにも参加できます。フランスと日本、和歌山を繋ぐような家具になり得るのではないでしょうか」と述べました。

    最後に、隈氏は和歌山の魅力について、「聖地であり、独特の自然資源があります。魚や食べ物、お酒も含めて、とても魅力的な場所です」と締めくくりました。

環境省 中村幸弘氏による「デコ活」の紹介

  • 続いて、環境省地球環境局デコ活応援隊隊長補佐の中村幸弘氏が、「デコ活」と呼ばれる新しい国民運動について講演しました。

    中村氏は、「デコ活」の正式名称が「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」であることを説明し、特に「新しい豊かな暮らし」という点を強調しました。

  • 「日本では2013年から2030年に向けて全体で46%のCO2削減を目標としています。特に家庭部門では66%の削減が必要です。そのため、暮らしのあらゆる面でサスティナビリティ、カーボンニュートラルを意識したリセットが必要なのです」と、中村氏は背景を説明しました。

  • 「デコ活」の特徴として、10年後の豊かな暮らしの具体的なビジョンを示すこと、そして官民連携のサポートチームを形成することの2点を挙げました。

  • 中村氏は、この取り組みが和歌山県やジオパークの魅力発信にも貢献できると述べ、「地域の暮らしを豊かにしながら、世界に向けて発信することができるのではないでしょうか」と提案しました。

スプラッシュトップ株式会社水野良昭氏によるリモートワークの推進

  • 最後に、スプラッシュトップ株式会社代表取締役の水野良昭氏が、リモートワークを通じた新しい働き方について講演しました。

    水野氏は、「和歌山でバケーションを楽しみながら、多くの人が東京の仕事をリモートで行っています。そのリモートのサービスを提供しているのが私たちスプラッシュトップです」と説明しました。

  • また、和歌山の魅力について、「和歌山の南部はフランス南部のニース周辺と似ていて、ジオ的な魅力もあるエリアです。きっとフランスの方々にも喜んでいただける場所だと思います」と語りました。

  • 水野氏は、和歌山ジオパークセンターの魅力や、和歌山独特の地層が生み出す恵みについても触れ、「ぜひ一度ご家族と和歌山にお越しいただければと思います」と呼びかけました。

    最後に、和歌山県の世界ジオパーク登録をテーマにした、デジタル技術で環境をよりよくするためのイベントについても紹介がありました。

    これらの講演を通じて、和歌山の自然の豊かさや、持続可能な未来に向けた様々な取り組みが紹介されました。和歌山の魅力が世界に広がることが期待されます。

南紀熊野ジオパーク:日本の精神性と自然が織りなす魅力

  • パリ日本文化会館で開催された南紀熊野ジオパークのプレゼンテーションにおいて、地域マーケティングの責任者である 森重良太氏が登壇し、興味深い講演を行いました。

    森重氏は冒頭、建築家の隈先生やスプラッシュトップの水野氏、そしてイベント開催に尽力したパリ日本文化会館や和歌山県庁の関係者、さらに参加者全員に対して深い感謝の意を表しました。

  • 「南紀熊野ジオパークの美しい景観については、先ほどの動画やプレゼンテーションでご覧いただいたことと思います。私からは、このジオパークから生まれた日本人の宗教観や精神性、信仰について、世界遺産である熊野古道と結びつけてご紹介させていただきます」

    まず、南紀熊野の地理的位置について説明がありました。「日本において東京に次いで二番目に大きな街である大阪がある関西エリアの南部に位置しています。日本の本州の最南端にあり、温暖な気候に恵まれた地域です」

  • 続いて、フランスからのアクセス方法について、二つのおすすめルートが紹介されました。

    1. パリから東京の羽田空港まで直行便で飛び、その後国内線に乗り換えて南紀熊野の玄関口である熊野白浜リゾート空港まで約1時間で到着する方法。

    2. 関西の玄関口である大阪の関西空港まで直行便で飛び、そこから陸路で約2時間かけて到着する方法。

  • 「東京や大阪からも非常にアクセスしやすい場所となっておりますので、日本にお越しの際は、ぜひ和歌山にもお立ち寄りください」

    この講演を通じて、南紀熊野ジオパークが単なる自然の景勝地ではなく、日本の精神文化と深く結びついた特別な場所であることが伝えられました。世界遺産である熊野古道と合わせて訪れることで、日本の自然と精神性の両面を体験できる貴重な機会となりそうです。

  • 和歌山における脱炭素やサスティナビリティへの関わりについて、IT企業経営者の水野氏に質問が投げかけられました。

  • 水野氏は次のように答えました。「私は元々木が好きで、和歌山には紀州材もあります。しかし、仕事をする上で都市部に行かざるを得ないことが多いのが現状です。例えば、パリや東京に行かないと高単価の仕事ができないといった状況があります。ただ、リモートやインターネット技術を活用すれば、東京やパリの仕事も場所を選ばずにできるようになります。自然に近づきながら仕事を充実させることが両立できるようになればと考えています。」

  • これを受けて、モデレーターは循環型社会や新しい働き方、和歌山の魅力について言及しました。さらに、和歌山が抱える人口減少や過疎化の問題、東京一極集中の課題にも触れ、都市と地方の関係性がジオパークや地域活性化に重要だと指摘しました。

  • そして、隈氏に和歌山にサテライトオフィスを置く意義や価値について質問しました。

    隈氏は以下のように答えました。「20世紀の都市集中は、超高層ビルの出現と共に始まりました。人が集まれば集まるほど効率よく仕事ができるという考えがありましたが、これは固定電話というデバイスに人間が支配された結果だと考えています。限られた固定電話の周りにたくさんの人間を集めれば仕事が効率よくできるという誤解が生まれ、これは20世紀最大の失敗だったと思います。今は逆に、集まらないでいることが重要になってきています。集まらずにハッピーになるには良い自然が必要で、和歌山にはその可能性を強く感じています。」

  • さらに、隈氏は熊野詣の例を挙げ、「京都の公家階級が熊野詣を楽しみにしていたように、都市生活に疲れた人々が熊野に惹かれるのは、実際に行ってみるとわかります。一説には、天皇が熊野詣をしたいがために上皇になったという説もあるほどです」と語りました。

    モデレーターは、フランスの巡礼道に触れつつ、人々が自然を求める本質的な部分があると同意しました。

  • 続いて、水野氏にITを活用した新しい働き方や、10年後、20年後のビジョンについて質問がありました。

    水野氏は次のように答えました。「家族との時間が非常に大切だと考えています。これまでは仕事のために家族との時間を犠牲にすることが多かったですが、これからは違います。ワイヤレス技術の発達により、離れていても近い距離感で仕事ができるようになり、移動時間が減ることで家族との時間も増えるでしょう。豊かな社会とは、仕事をしながらも家族との時間を大切にでき、都市部だけでなく地方でも一流の仕事ができる世の中だと思います。」

    モデレーターは、日本人の休み方の下手さとフランス人の上手さを対比させ、日本がフランスから学ぶべき点が多いと述べました。

    イベントは、高野山に関する質問と隈氏の回答で幕を閉じました。この一連の講演と質疑応答は、和歌山県の自然、文化、そして持続可能な取り組みに光を当て、参加者に深い印象を与えました。今回の会で共有された知識と経験は、和歌山の魅力を世界に広めるための一歩となり、地域の持続可能な発展への理解と関心を深める契機となったことでしょう。

パリで発信!和歌山の魅力∞~南紀熊野ジオパークを世界へ~
提供:パリ日本文化会館

隈研吾先生 和歌山建築×デコ活・環境DXワーケーション

Design office

隈研吾建築都市設計事務所について

世界的建築家である隈研吾氏が代表を務めるデザイン・設計事務所です。国内外合わせて数百名におよぶ設計のプロフェッショナルが所属し、それぞれの才能によって世界に新たな潮流を生み出しています。

建築物の設計を中心に、室内装飾や食器・家具・小物などのデザイン等も幅広く手がけています。進行するプロジェクトは数百に及び、活動の場は50ヵ国以上に及びます。最近ではインテリアや商品開発の案件も増えており、新領域の開拓も進んでいます。

和歌山県とは、2022年2月に「建築デザインの力による地方創生の実現に資する包括連携協力に関する協定」を締結、2022年11月には和歌山市に新オフィスを開設するための進出協定を締結し、地方創生への取組に尽力しています。

隈研吾建築都市設計事務所
https://kkaa.co.jp/

Mizuno Yoshiaki

スプラッシュトップ株式会社
代表取締役 水野良昭のコメント

AKANEは和歌山の魅力を世界に発信するプロジェクトの一環として企画が始動しました。

隈研吾氏による、本来なら欠点材のシンボルとなってしまう虫食いがデザインへと昇華された「AKANE」を通して、和歌山県の魅力だけではなく、環境問題や国内の木材使用・雇用に関して、少しでも思いを巡らせていただければ、私も嬉しく思います。

スプラッシュトップ社としても、リモートアクセス技術を通して、今後もSDGsや地方活性化に貢献していきます。

Company

スプラッシュトップ株式会社について 

米国Splashtop社は、リモートアクセス、リモートサポートなどのソフトウェア「Splashtop」を開発する企業として2006年米国カリフォルニア州サンノゼのシリコンバレーで設立されました。

リモートデスクトップ「Splashtop」は、タブレットやスマートフォン、コンピュータなどの様々なデバイスから遠隔のコンピュータに高速アクセスするソフトウェアで現在、国内法人35万人以上のユーザーが愛用しています。日本法人であるスプラッシュトップ株式会社は2012年に設立しました。

リモートデスクトップ「Splashtop」で企業や個人でのリモートワークやテレワークを推進し、新しい働き方改革の実現をサポートしています。現在、日本では株式会社カラー、株式会社村田製作所、東京大学、ニッセイアセットマネジメント株式会社など映像制作関係、金融関係、製造関係、建築関係、教育関係、医療関係 など幅広い業界で採用されています。

スプラッシュトップ株式会社
https://www.splashtop.co.jp/